森川鉄道(架空)

本多治見駅訪問記



2007年も残りわずかとなったある日、私は年末の仕事を早々に片付け、
大掃除がはじまるまでの空白の1日を有効利用しようと、本多治見駅を訪問することにした。
以前訪問した時はまだ単線で、裏手の引き上げ線に旧型車が居座っていたのが印象的だった。
その後複線化されたのを鉄道F誌上で読んだが、それから本多治見駅に行くのは初めてだ。



JRの211系に乗り込み、本多治見へ。
冬の暖かい日差しを受けながら、本多治見のホームへ降り立った。
向かいには複線化のときに作られたばかりの、大きな屋根を持つホームが見える。

電車が走っていくと、左手に広がる多治見の町並みが一望できる。
この眺めは以前と変わらないが、若干高層建築が増えたようにもみえる。
さっきまで乗っていた電車が、土岐川の橋梁を轟音と共に渡っていくのが見えた。
気がつけばホームには、次の電車を待つ人がちらほら立っていた。



細いホームを駅舎のほうへ向かって歩く。
左手には東鉄本多治見駅と、その間にある保線基地が目に入る。
その奥、以前は貨物駅があったのだが、いつのまにか立派なロータリーができている。
ロータリーの線路側には大きな看板で、「森鉄本多治見駅新駅舎 工事中」と書いてある。
確かに、現在の本多治見駅は東鉄の駅や市街地と遠くて、若干使い勝手が悪い。
新駅舎ができると、ホームから多治見市街地が眺められなくなるのだろうか。



東鉄線は以前と変わらぬ佇まいだった。
電車の少ない時間帯なのか、ホームには1人の乗客が座っているだけであった。
停まっている電車は、パンタグラフこそ上げているものの、動き出す気配は無い。



まだ工事中なのか、ところどころに警戒色の残る森川方面ホームへの乗換え口。
特徴的なドーム屋根はこの駅のシンボルになるのだろう。
階段の先は新駅舎に繋がるとのこと。新駅舎から階段を上ると明るいドームが出迎える訳か。
ふと見上げると、恐らく昔から使われている行灯式の行き先案内があったが、
「多治見」「太多線」「中津川」「普通」「優等」以外は全てガムテープで塞いであった。
近々撤去されるのか、それともこのまま残すのか…



駅前通りへ出てみた。確か記憶では、商店街があった筈だが、
1軒の商店とあとは空き地であった。
あちこちに工事中の看板があることから、再開発でもなされるのだろうか。
踏切は最近自動化されたのだろう。警報機の無い古い踏切と、警手小屋が残っている。
そういえば道路も、昔はもっとでこぼこだった気がする。



そうこうしていると、踏切が鳴り出した。
カメラを構えると、やってきたのは4000系だった。
ステンレスの輝きが眩しいが、この電車も今はそう新しくは無い部類に入る。
私が学生の頃は、はじめてのステンレス車輌ということで人気があったのだが。



さて、森鉄の駅を後にして、新しいロータリーへ。
ロータリーの奥には、以前と変わらぬ姿の東鉄本多治見駅があった。
以前撮った写真によると、左奥から貨物線が延び、丁度植木の辺りに貨物駅があったようだ。
そういえば日通のトラックが並んでいた気もする。
眺めていると、旧式の車が走ってきて、多治見駅の正面に横付けした。
お迎えだろうか、大きな荷物を持った婦人が何か言いながら階段を下りてきた。



ロータリーを横目に、大通りへ歩み出た。
以前からの大通りで、後ろを振り返ると土岐川を渡る為の坂が見える。
坂の向こうには橋があるのだろうが、ここからは見ることができない。
駅の脇には古風な商店が建っているが、一体何の商売を営む店なのかはちょっとわからなかった。



大通りには数件の商店が軒を連ねている。並木かと思ったら、民家の庭の木が繁茂しているだけであった。
先程の商店の奥はタクシーの営業所であり、入り口脇で2人の職員が何やら作業をしている。
その奥は薬局だが、店の軒先には小さな椅子と、「陶都大橋」と書かれたバス停がある。
丁度、バスが到着し、数人の学生を乗せると、排気ガスの香りを残してのそのそ走り出した。



薬局の奥には倉庫があり、倉庫と続きでなにやら活気のある店がある。
土産物屋だが、観光案内所を兼ねているのだる。店先にはパンフレットなどが並べられていた。
酒好きな妻への土産に、陶器でできた杯を買った。
店主に聞くと、陶器類は裏の東鉄線で運ばれてくるらしい。沿線が陶器産地なのだろう。



土産物やを過ぎると、大通りは右にカーブしていくが、大通りから分岐して直進する路地があった。
路地沿いには古風な雑居ビル2軒とこれまたマニア好みの看板建築が建っている。
片方の雑居ビルは、これも土産物屋のようだが、先程の店ほどの活気は無い。
看板建築は理髪店のようだが、理髪店にある筈の“くるくる”が見つからない。
手前のビルは1階が改装中で、上は囲碁教室などが入っている。
守衛さんがいたので、許可をとって屋上へ上がらしてもらうことにした。



裏手は先程の東鉄の駅で、相変わらず電車が停まっているだけだ。
良く観察すると、ホームの裏に細い路地が伸びており、
先程の土産物屋の裏手で途切れている。
路地の中ほどにはダンボールでできた山があり、猫たちが暮らしているようだ。



森鉄線と東鉄線の境では何やら作業中。
手前の錆びた線路が、恐らく貨物駅へ続いていた線路なのだろう。
東鉄・森鉄両者の作業員がいるので、この線路の撤去作業を行っているのかもしれない。
だとすると、貨物駅が廃止されたのも最近なのだろうか。



作業を眺めていたら、奥の線路を先程の4000系が森川方面へ走っていった。
もうすぐ夕方。車内の空き具合から見て、恐らくラッシュへ向けた回送電車なのだろう。
冬の陽はいつのまにか大きく西へ傾き始めていた。そろそろ戻るとするか。



もう一度森鉄本多治見駅を眺める。
小さいけれど、なかなか威風堂々とした駅舎ではないか。
この手前に新駅舎が建設されると、この角度で駅を眺めることはできなくなる。
今のうちに写真に収めておくことにしよう。


帰りの電車の中、私は今撮った写真を見直した。
コンパクトデジカメだと、これができるから小旅行には便利だ。
そういえば、森川方面のホームの写真を撮り忘れた。
踏み切りの向こうにも行っていないな。いずれまた来たときに行くことにしようかな。
すっかり暗くなった車窓の向こうには、森川の明かりが見えた。

おわり


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